mp3 320kbpsの実力

これまでmp3 192kbpsで聴いていたものを、320kbpsにしてみたらいい音でしたよ、という至極当たり前のお話。
その差は聴いて分かるものなのかというと、分かるからこんなことを書くのだが、ではどのくらいの違いがあるのか、というあたりを書いてみたい。




Instant Karma

Instant Karma


最初にmp3 320kbpsにしてみたのは、『Instant Karma: The Amnesty International Campaign to Save Darfur』。先日購入したジョン・レノンのカバーで、ダルフール危機のチャリティアルバム。最初、iTunesStoreで買ってしまってから、CDがあるのは当然である、と思い至って買い直した。
iTunesStoreで買ったのは、AAC 128kbps。
iTunes PlusではAAC 256kbpsで買える楽曲が出始めているので、なんとなく対抗してmp3 320kbpsでエンコードしてみた。一般に「mp3」と呼ばれているMPEG-1 AudioのLayer IIIは、「MPEG-1」という名前からも分かるように、何しろ古い規格。同一ビットレートであれば、AACにはかなわないだろう。そういうわけで320kbps。
その結果としては、スネアなどのタイコの音がパン!と弾けて聞こえるようになった。ような気がする。


正確を期すなら、二重盲検*1でもやるべきだろうが、なかなかそれも難しいので、以降の評価は全部「気がする」だけであることは、一応断っておきたい。



ER-4S

Etymotic Research
ER-4S

もう一つ、再生環境も書いておこう。iPod nanoとER-4Sというヘッドホン。オーディオマニアに知れたら、「音質比較をするのにER-4Sはともかく、iPod nanoとはなにごとか」などとぶっ飛ばされそうな環境であるが、mp3のプレイヤーは、PCとiPodしか持ってないので、ご勘弁願いたい。
スピーカーにヘッドホンを使ったのは、手持ちでもっとも良い音響環境を実現することができるため。据え置きのスピーカーでいい音を聞くためには、良いスピーカーと良い部屋が必要になる。とてもお金がかかる。ひるがえって、私の持っている据え置きオーディオは、スピーカーまであわせて8万円程度で買えたソニーホームシアター。いい音よりも、手軽にサラウンドを楽しむためのものである。部屋だって、音響のために特に何かしているわけでもない。ヘッドホンというのは、多少高くても、それひとつで製品設計時に想定された音響環境を実現する、手軽なガジェットなのである。
ただし、ヘッドホンでは、右のスピーカーから出た音を左の耳で聞くことはできない。この不都合を解決するには、左右の耳で聞こえる音そのものを、そのまま左右のチャンネルに記録したバイノーラル録音の音源と、バイノーラルオーディオ対応のヘッドホンが必要になる。ERシリーズならばER-4Bがバイノーラルオーディオ対応だが、そういうものはあまりない。


閑話休題




J.S.バッハ ゴールドベルク変奏曲

J.S.バッハ

ゴールドベルク変奏曲

グレン・グールド

(1981年デジタル録音)

「いい音になったー」と、いい気になって、今度はグレン・グールドゴールドベルク変奏曲を320kbpsにしてみる。
まず、1981年録音盤。これは、音が柔らかくなった。ピアノのハンマーの頭のフェルトの感触が聞こえるような感じ。
1955年録音盤は、元々の録音がよくないため、あまりありがたみがなかった。ノイズ多めだし、モノラルだし。





ベートーヴェン交響曲第5番・第7番

ベートーヴェン

交響曲第5番

カルロス・クライバー指揮

ウィーンフィル

次は、カルロス・クライバー指揮、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団演奏の、ベートーヴェン交響曲第5番。 あんまり分からんな、と思ったらボリュームが小さかった。実際の楽器の音量に近づけねばならんということ。ピアノと同じ音量では、よく聞こえないわけだ。 各々の楽器が聞き分けられるのは、192kbpsでも、ER-4Sを購入してからずっと同じだが、320kbpsではさらにクッキリしてきた。


マーラー交響曲第8番

マーラー

交響曲第8番

サイモン・ラトル指揮

バーミンガム市交響楽団

先日エンコードしたばかりなのが、サイモン・ラトル指揮、バーミンガム交響楽団演奏の、マーラー交響曲8番。 これを「実際の音量」に近づけると、もうすごい音量。初演のキャッチコピーから「千人の交響曲」と呼ばれるこの曲は、大変な人数で演奏される。初演では、本当に千人くらいいたらしい。 おそらくマーラーの意図したとおりなのだが、楽器を聞き分けるどころか、声楽もあわせて、多くの音がひとつになって聞こえてくる。その中でひときわ大きな音を奏でるソロの音を頼りに比較してみたところ、高音の広がりが良い。不可逆圧縮といえば音でも画像でも高い周波数を切り捨てるのが常套手段だが、その切り捨てが少ないのだろう。 ついでに、CDとSuper Audio CD(SACD)とも聴き比べてみる。 すべての曲でCDを持っているが、SACDを持っているのは、グールドのゴールドベルグ変奏曲と、クライバーベートーヴェン5番。 プレイヤーは、前述のホームシアター。これにER-4S。結果、ホームシアターの音の悪さを確認できてしまった。これはひどいアンプですね。「サー」というノイズが、結構しっかり聞こえる。 ノイズを意識的に無視して聴いてみると、これはソニーの音作りなのかな。硬い。耳をつんざくような。 CDとSACDは、音の広がりが違う。CDは少しこもったような感じだが、SACDは音がぱーっと広がっていくような感じ。 このプレイヤーで再生したCDと、iPodで再生したmp3 320kbpsの音は、優劣がつけられない。ノイズがないだけiPodの方が良いと思う。 へたなプレイヤーで再生するCDより、mp3 320kbpsの方が良い音といってもいい。 『ITmedia +D LifeStyle:「機能」でなく「音」で選ぶプレーヤーソフトのススメ』という記事を読んだことがあったので、iTunesWindows Media Playerでも比較してみたが、その差は分からなかった。 そもそもMPEGというのは、デコードの規格である。ここは標準化されていて、それほど手を入れることができない。一方で、エンコードの規格はない。デコードの規格に適合するようなファイルを出力すれば、それで良いので、ここがメーカーの腕の見せ所。エンコードは音を間引く技術で、デコードは間引かれてしまった音をそのまま再現する技術。MPEGの音をよくしたいなら、エンコーダを選ぶべきなのだ。 エンコーダ探すのがめんどくさいというなら、プレイヤーの微妙な差など追求するより、ビットレートを上げる方が確実。HDDもフラッシュメモリも、容量はどんどん増えているので、ファイルサイズなどたいした問題ではないだろう。

*1:比較試験において、準備する人と、実施する人を別にして、実施者にもどちらがどちらなのか分からないようにする検査法。被験者が実施者の様子を見て態度を変えることを防ぐ。