明日は突然無くなる


「明日はすぐに今日になる」というコピーを見たことがある。時計か化粧品の広告だったか。
当時10代だった私は、それを見てひどく焦った。
明日はすぐに今日になるのだ。今日はすぐに昨日になるのだ。そして、明日は、ある日突然無くなるのだ。


その、前だか後だか定かではないのだけど、『ヴィナス戦記』(安彦良和著)を読んだ。
舞台は、タイトルの通り金星。
金星なんて暑くて住めたもんじゃないのだが、作中では巨大隕石の衝突によって、自転周期と公転周期がきわめて近くなっていた。常に同じ面を地球に向ける月に似て、常に同じ面を太陽に向けることになっていた。
その他、環境の激変もあって、永遠の夜と永遠の昼の継ぎ目、永遠の黄昏の地に人類は入植していた。
この惑星では、夜は明けない。
以来、「明けない夜は無い」という言葉を聞くと、ひっそりと鼻で嗤うようになった。同じ条件なら、暮れない昼だって無い。
じっとしていても夜は明けない。太陽に向かって進まない限り、夜は決して明けることはない。


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2006/07/22:脱字修正。