迷惑をかけない路上喫煙

結構前になるが、千代田区の路上喫煙禁止条例が、ほかの区にも拡大されるニュースがあった。
そのニュースを受けて、あるコメンテイターはこう言った。
「人に迷惑をかけなければ、路上喫煙したっていいじゃないか」
まったくその通り。では、人に迷惑をかけない喫煙とはいかなるものか。
タバコを吸っても、人に一切の不快感を与えない。これが、人に迷惑をかけない喫煙といえる。


私はかつてタバコを吸っていた。
携帯灰皿は、常に携帯していた。ポイ捨てなど、絶対にしなかった。
いつだったか、JTのCMで、森の中でタバコを吸っている真田広之がこんな様なことを言っていた。
「誰も見ていない。でもポイ捨てはしない。美意識だと思う」
このCMが放映されたとき、まだタバコを吸っていたが、こんなものは美意識ではないと思った。これは、常識である。この程度のこともまともにできないタバコ吸いのせいで、マナーのしっかりしたタバコ吸いは迫害されているのだと思った。『ローマの休日』でどうしても受け入れられないのは、主人公がタバコをポイ捨てするシーンがあることだった。


路上喫煙するときは、隅っこのほうを歩いて、できるだけ人に煙が行かないようにした。
禁煙のエリアでタバコを吸うなんて、まともな大人のすることではないと思っていた。
これで、人に迷惑をかけていないと思っていた。


タバコをやめてから、その考えが甘かったことが分かった。
煙もさることながら、臭いも不快なのである。タバコ会社は「香り」と表現することもあるが、非喫煙者にとっては「臭い」である。
臭いについては、人それぞれ、口が臭かったり、汗臭かったり、なんだか酸っぱい臭いがしたり、香水がきつかったりと、タバコばかりを攻めるわけにはいかないのだが、いずれも迷惑なことに変わりはない。
その中でもタバコの臭いは強力で、5m離れても臭う。風下なら、もっとひどい。歩行喫煙者の後ろは、10m離れても臭い。
臭いだけならいざ知らず、煙となると、健康上のリスクまで負うことになる。副流煙は、主流煙よりも体に悪いのだ。


自分を中心に半径10mのエリアに人がいない状態というのは、それなりに人通りのある道では、なかなかありえない。
つまり、人に迷惑をかけない路上喫煙というのは、結構難しいのだ。


千代田区の路上喫煙金条例が施行されたとき、それを告知するポスターにこんなことが書いてあった。
「マナーからルールへ」
どのようなことがあると、マナーがルールにされてしまうのか。
マナー違反が目に余る場合である。
おそらく、私と同じく、迷惑をかけていないと思っている人が多いのだ。
でも実は迷惑なのである。だから、条例になったのだ。
JTの意見広告をよく見て、肝に銘じておいたほうがいい。でなければ、タバコ吸いにはツライ世の中になるだろう。