前向きなコピーコントロール

コピーコントロールの是非については、この際議論しない。彼らはコントロールしたいのだし、違法でもない。日本では私的複製の権利などない。私的複製というのは、相応の対価が支払われている場合や、著作権者に損害を与えない場合に限って「許可」されているもので、「権利」ではない。アメリカとは違うのだ。
とはいえ、違法でなければ何をやってもいいわけではない。ここでは、音楽のコピーコントロールのやり方について議論したい。


コピーコントロールCD(CCCD)は買ったことも聴いたことも無いので知らないが、音が悪いと言われている。また、再生できないプレイヤーが存在するとも言う。収録時間も短いと言う。コピーコントロール自体にはほとんどのミュージシャンが賛成だろうが、音が悪いだの、再生できないだのは許容できない向きも多いだろう。坂本龍一そう言ってる


そこで、ひとつ前向きな案がある。
もっといい音を普及させて、相対的に「CDの音は悪い」ということにしてしまってはどうか。CDの次世代規格を普及させるということである。
CDの次世代規格というと、Super Audio CD(SACD)DVD-Audioがある。いずれも、音質を損ねないコピーコントロールが、ネイティブで実装されている。
DVD-Audioは聴いたことがないが、SACDは大変にいい音がする。ウチには、TVは小さいものの5.1chのホームシアターシステムがあり、これがたまたまSACDの再生が出来る。で、SACDのマルチチャンネル(サラウンドみたいなもの)を再生させると、ホールトーン(コンサートホールの残響音)まできれいに再現されて、すばらしく音がいい。まさにそこにいる感じである。VHSが当たり前の時代に、DVD-Videoの映像に驚いたものだが、そのような状態を想像していただけるといい*1。音楽はiTunesで聴くのが常だが、SACDであれば、ガチャガチャ面倒でもディスクを入れ換えて聴こうという気になる。リスナーにとっても、ミュージシャンにとっても、うれしいことである。
このように、いいことがなければ、変化は受け入れられない。


では、SACDDVD-Audioを、どうやって普及させるか。音が聞こえるだけでいいリスナーが多い中で、余分なお金を払って、SACDDVD-Audioのプレイヤーを買う人など少ない。
この点は、SACDに分がある。なぜならば、SACDはCDとのハイブリッドディスクを作れるからである。二層になっており、CDプレイヤーは、何も知らずにCDの層を読む。SACDプレイヤーはCDの層も読めるであろうが、普通はSACDの層を読む。リスナーは、何も意識することはない。SACDプレイヤーを持っていれば、従来と同じ操作でいい音になる。
最近、表裏でDVDとCDになっているハイブリッドディスクの規格が出来たようである。なので、DVD-AudioとCDのハイブリッドも可能であろうが、両面が読み取り面であるとレーベルが印刷できない。表裏間違ってプレイヤーに挿入することもあり、どうも不利である。
普及のさせ方は簡単で、CDをすべてSACD/CDのハイブリッドディスクにしてしまって、新しく発売されるプレイヤーもすべてSACDに対応する。音楽業界とオーディオ機器業界全体の協力が必要となるが、これぐらいのこともやらないで、著作権保護云々などといっても、説得力がない。
こうすればいつのまにか、よりいい音が普及し、相対的にCDの音は悪いことになる。よりいいものに接すると、これまで受け入れていたもののアラが見えてくるものだ。
ちなみに、変化の激しいコンピュータの世界では、こんなことは当たり前に行われている。古いものの品質は変化しないが、古いというだけで、相対的に品質が劣化する。音楽業界は、甘やかされているのだ。


コピーコントロールについても、SACDに分がある。
SACDを読めるPCドライブは市販されていないためだ。PCで読めるのはCDの層だけだが、iTunesへ取り込むならば、それで充分である。Apple Losslessを使うならいざ知らず、MP3やAAC非可逆圧縮をするのであれば、どうせCDより音が悪くなる。CD層の部分はコピーできてしまうが、「音が悪い」のだから、従来許容されていた劣化コピーと同等といえる。市場に出ていないのだから、今後も単純にSACDドライブの発売を禁止しておけばいいだけである。もっとも、SACDはオーディオにしか使わないのだから、SACDドライブを作っても、リッピングとコピーくらいしか用途がない。そのような胡散臭いものを作ろうとするメーカーも、少ないであろう。
DVD-Audioは論理的な規格で、物理的にはDVD-ROMと変わらない。つまり、普通のDVD-ROMドライブで読める。ドライブで読める以上、ソフトウェア次第でコピーできる。DVD-ROMドライブは、すでに市場に出回っているので、これはどうにもならない。


これまで出来たことを出来なくする変化など、おおむね受け入れがたいものだ。自分で買ったCDの音楽をiPodに移せないなど、どう考えてもおかしい。そんなやり方をしているから、音楽業界は衰退しつつあるのだ。CDの売り上げが落ちているのは、P2Pのせいだけではあるまい。買うに値しないCDを作っているから、P2Pによって打撃をこうむるのだ。つまり、音楽が退化しているといえる。
音楽メディアが、アナログレコードからCDへ進化*2したように、CDから次世代のなにかへ進化してほしいものだ。私は技術者であるが、著作権保護のお題目を唱えて音楽を退化させる技術など、音楽好きとしても技術者としても許容できない。

*1:ちなみに、DVD-Videoを見るときは、S端子以上の高品位接続を強くお奨めする。RCAという旧来の1ピンのケーブルで接続してもその品質は味わえない。

*2:アナログレコードはノイズさえゼロであればCDより音はいいが、この際それはさておく。