『はるかな響き Ein leiser Tone』(飛浩隆(とび・ひろたか))


冒頭、アーサー・C・クラークのもっとも有名な小説を思い出したのだが、読み進めていくうちに、これはスタンリー・キューブリックだと思った。
あの音が頭の中で鳴り響く。曙光差す、あの荒野が目に浮かぶ。


人が、ものを見て、それを言葉にする過程で抽象化が起こる。
例えば、眼鏡を見たなら、レンズがありフレームがありパッドがあるという知識とともに、「眼鏡」という言葉を認識する。その認識をした時点で、眼前にある眼鏡は曖昧な形で認識される。
言葉によってコミュニケーションの効率は飛躍的に向上した。一方で、言葉以前の認識を失ったともいえる。「天才」と呼ばれる人は、そのような認識を維持してるとも聞くけど、そのあたりはよく分からない。
なんてなことを思いながら読んだ。


TORNADO BASEのanswer songsで読める、飛浩隆氏の短編。なるほど、アンサーソング
飛氏の作品を読んだのは、これが初めて。
"Ein leiser Tone"はドイツ語で、英語にすると"A quieter Tone"*1。実は「はるかな響き」と、ちょっと意味が違う。とはいえ、「はるか」でもあり「かすか」でもある。


ところで、これはいつまで無料で公開されているんだろうね。
教えてもらって、というか人が紹介してるのを勝手に読んで、直接見に行ったので、よく分からない。
プロの作家が、これだけのクオリティのものを、ずっと無料で公開し続ける、ということがないとは思わないが、サイトはちょっと商業的な雰囲気がある。「単行本8月末発売予定」とあるので、その頃には読めなくなるのかもしれない。

*1:なんで日本語にしないかって、Google翻訳にかけたら、「静かな口調で」とか訳されちゃって、なんか違うんじゃねーかなと。あんまり離れた言語にすると、意味がずれてくるのだろう。