「デジタル」と「アナログ」


「論理的」とか「自動」とかのニュアンスで、「デジタル」と言われることが意外と多いのだけど、これは間違い。また一方で、「感情的」とか「手動」を、「アナログ」と言うのも、間違い。「あと1ポイントで賞品獲得です」を、「リーチ」と言うくらいの間違い。聞いてる方が赤面するくらいの間違い。ホント勘弁してください。
まあ、「リーチ」は、「あとひとつ」で、すっかり定着した感があるので、いまさら「間違い」と力んでもしょうがない。言葉は変わっていくものだから。


「デジタル」は、とびとびの値を取ることであって、日本語では「離散」という。それに対して、「アナログ」は、連続した値をとって、そのまま「連続」という。
例えば、0〜9の範囲があるとして、0・1・2・3・4・5・6・7・8・9の値だけが有効である場合、それはデジタル。アナログは連続的であるので、1.5とか、1.41421356とか、2.23620679とか、3.1415926535897932384626433832795028841971とか、0から9の間であれば、どれほど細かい値であっても有効。すなわち、理想的な条件下では、デジタルよりもアナログの方が、精度が高い。


デジタルとアナログの例として、音楽CDとアナログレコードを比較してみよう。
音楽CDは、音量を2の16乗の65536段階に区切り(=量子化ビット数16bit)、1/44100秒(1/44.1k秒)毎に音を記録している(=サンプリング周波数44.1kHz)。
どういう計算をするのか知らないけど、量子化ビット数16bitで、90dBのダイナミックレンジが得られるらしい。ちょっと検索してみたところによると、アナログレコードは高々60dB。
サンプリング周波数は、再現しようとする音の2倍以上必要なので、44.1kHzなら22.05kHzの音が記録できる。人間の可聴域は20Hz〜20kHzと言われているので、これで充分とされた。
ところが、アナログレコードの方が音がいいという意見は、根強い。
おそらくこれは、理想的な条件下では音量の変化が無段階であるアナログレコードに対して、65536段階では粗すぎるため。また、同じく理想的な条件下ではサンプリング周波数が無限のアナログレコードに対して、44.1kHzでは低すぎるため。可聴域外の音は直接聞こえるわけではないが、その振動は人体に伝わっているのだろう。多分。


「理想的な条件下」と何度か書いたが、この言葉は物理の勉強でよく使った。
なんからの仮定に基づく環境で、その仮定以外の撹乱が、一切無い状態をいう。
今回の話では、ノイズがゼロである環境を仮定している。


デジタルがアナログに対して圧倒的に有利である点として、ノイズに強いことが挙げられる。
前述の1〜10の範囲で1.1という値が得られた場合を考える。
デジタルであれば、この値は1であって、残りの0.1はノイズであると判断できる。
アナログでは、1.1という値はそのまま有効であるがゆえに、ノイズとの区別がつかない。
したがって、「理想的な条件下」では、アナログはデジタルよりも高性能であるが、ノイズの問題ゆえに、一定以上の性能を発揮することができないといえる。


話は逸れるが、このノイズの扱いの難儀さゆえか、アナログオーディオの新規格は登場していない。
それ以上に、CDの取り扱いの簡便さに慣れると、アナログレコードなんて面倒で使っていられない。
ただ、「アナログレコードより音が悪い」という問題はあるわけで、だからSACDDVDオーディオなどが登場したのだろう。確かに音はいい。
音はいいのだけど、その音質はあまり求められてはいないらしい。私も、普段聴く音楽はMP3に落としたもの。それをiTunesだのiPod nanoだので聞く。この簡便さに慣れると、12cmディスクなんて面倒で使っていられない。
簡便さを保ちつつ音質の向上ができるのは、現状ではPCくらいしか思いつかない。IntelのHD Audioは、量子化ビット数24bit、サンプリング周波数192kHzであり、音楽CD以上となっている。


デジタルとアナログの話は以上。


つまり、「デジタル」と「アナログ」という言葉は、「論理的」とか「自動」とか「感情的」とか「手動」などとは、ぜんぜん関係ないのだ。それぞれ、「ロジカル」「オートマティック」「エモーショナル」「マニュアル」というのだ。
分かってくださいよ。